力を貸して、神様
霞の世界
罅割れたナイフを繋ぎとめる
あなたの為に今 僕ができる事
所有の放棄、拾うのは
不利益の利益
利益
ないものねだり
渇望
願っているのは

























































































肩にかけた肉は重くて膝が立たなくなる。体力はある方なのに、と悔しさで顔が歪むが、自らと同程度の体重支えるのは屈強な大人でも難しいという事に思い到らなかった。
別の事を考える余裕は小さな頭には無く、ただ必死に目的地まで引き摺る事だけが無限ループ宛ら回っている。後少し。赤い液体が体を冷やしたがお陰で頭が冴えて進む足に力を入れた。







「で、お前はそれを引き摺って来た訳か」
「コイツも連れて行きたい」

そういうと神は嘲りを口に映し視線を寄越した。

「それは置いてけ」
「…っ!」
「お前、それはどこから運んで来た?」

別の角度から入ってきた質問に反応出来ず眉を顰めると、神は面倒くさそうにもう一度同じ言葉を繰り返した。

「南側の…一番高いビルの近く」
「血が出てるな」

神の言葉は謎かけだ。場所を聞いたと思えば出血の有無の確認。意味がわからない。
それに見たら分かる問いだ。この流れる血はコイツの命。体から離れる流動的な魂。
そこまで考えてはたと気付いた。
血は常に流れ続けていた。という事は。

「わかったか?あの死神はお前が連れてきたんだ」

迂濶だった。流れ出した魂で出来た道を辿り死神が残る命を狩りに来るのは、今までの経験から学んでいる筈だったのに。
今更逃げようにも足音が聞こえる程接近を許してしまっていては、完全に逃げ切る事は出来ない。
絶望的な気分で神を振り仰ぐと、嘲りの表情が消えた精悍な視線にぶつかった。

「総員に伝令。敵接近につき交戦準備。急げ」
「了解」

伝令に走る間、熱を持っていた心が急激に冷えていくのを、後悔と共に歓迎したい気持ちで迎合した。






――――――――――
結局その戦闘で組織の2割が死神に足を取られたが、その躯を冷たく見捨てる自分がいた。

























































時折世界が鮮明になる時がある。
そんな時は大抵ぼんやりした霞が晴れていって視界が良くなり、次いで明るくなった意識に状況の情報が膨大に入ってくる。
その情報量は目眩を覚える程。どこにいるか分からなくなる。

ただ一番に入ってくるのは赤。注意を呼び掛ける色なのかとても鮮やかに眼に入り、それを皮切りに情報が整理されていく。そして赤に着いてくる状況。
それは常に戦場を意味した。
赤の次には鉄。鉄の次には轟音。轟音の次には目の前にある冷たい塊。

まだここにいるのか。

霞が払われる度にそう思ったけれど、この状況を抜け出す方法なんて思い付かない。分らない。しらない。
そうしてまた霞が視界を遮るのを黙って見ている。






――――――――――
自ら眼を閉じる前に掠めたのもやっぱり注意を促す赤。

























































「刹那!」

鋭い呼び掛けも目の前の狂気に狂喜した凶器には届かない。鋭利なナイフは鋭敏な刃先で鋭角の切り口を残すべく急所である内腑を狙う。練習用と言っても刃物には波紋もありそれなりの傷を築く。張り付いた針を払う事も出来ず視線を外す事も出来ない。間に合わない。
しかしナイフは寸での所で肉を切り裂かずに済んでいた。

「やりすぎだ」

響く言葉で吹雪く雪。気温が下がったかと錯覚する程の氷雪を纏って紫暗の青年がナイフを捉え、捕らえる様に思案の瞳をその首に突きつけた。
氷雪に晒されているにも関わらずナイフと化した少年は拘わる事無く声を返す。

「…まだだ」

恐ろしく温度の無い奇妙に押し殺した声。抑揚のない声はよくよく聞こうとしなければ拾えない程の独り言だった。虚に移ろう眼が何も映さず俯いている。

「敵が生きている。殺さなければ。まだ生きている。殺さなければ。殺さなければ殺られる。殺さなければ。守れない。殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、殺さなければ、」
「…!」

垣間見たそれは暗く重く。壊れたレコーダーは請われてもいないのにノイズを吐き出し、呪詛を重層に重奏する。引き吊った音は曲にもならないのに耳にこびりついた。
溜め息一つをピリオドとして制止させたまま静止したひび割れたナイフを放り投げる。抗う間がなかったそれは素直に湖面の色を映した眼の青年の腕に納まった。

「子どものお守りは貴方の管轄でしょう、ロックオン」
「ちょ、ティエリア!」

取り残された青年は腕の中で未だ殺戮に取り殺されそうなナイフを鞘に納めようと強く掻き抱いた。






――――――――――
欠陥を抱えた結界は結果的に決壊し血塊を散らす。

























































「エクシア」

感情を込めて呼ぶ音は微重力の中では響かなかったが、周囲の空気を多少振るわせる事には貢献して拡散した。
誰にも聞こえない程の呟き。誰かに聞かせる為ではない囁き。
誰に聞こえなくても大した問題ではない。目の前に聳え立つ存在に、籠めた感情が僅かでも移れば良いのだ。そうすれば戦える。進める。俺はまた力を得られる。

「エクシア」

美しい狭間の使者。亡き神と土塊の間でもがく事を強要された傷を負う天使。
父にも人にも恨みしか持てないだろうに、それでも狭間で生きる事を止めない、唯一の神。
出来る事ならその羽を癒し解放してやれたら。だが無力な自分は与えられるものを何一つとして手の中に残せなかった。
ならばせめて。

「…エクシア」

せめて歪んだ鎖を断ち切ろう。そして全て終わったら空へ解放するのだ。父にさえ手の届かない宙へ。






――――――――――
だってその羽は縛られる為ではなく、駆る為にある。
そうだろう?

























































「刹那」

誰かを呼び掛けている声が響いたが、聞き馴れないイントネーションを持つ不思議な木霊は、結局拾われる事なく地に溶けた様だ。
そんな事よりも、いま手にあるフォークという道具に注意を戻す。食事時にこの道具を使う文化がなかった俺は、気を抜くとせっかく持ち上げた料理を口に入れる前に逃がしてしまう。刺せない程小さいものや細いものを掬う時は特に気を使わなければならない。

「おい刹那、無視とは良い度胸だな」

気を引くようにトン、と音を立てて目の前に手が現れる。腕を伝って顔まで見上げれば、何かと小煩い青年の細く捕捉する眼とぶつかった。

「俺の事か」
「お前以外に誰がいるんだよ」

呆れ顔をニヒルに歪ませて笑顔を作る青年は実に器用だ。感心しながら、そういえば、と思い出す。
この組織に入った時、守秘義務の遵守とコードネームの使用を義務付けられた。守秘義務は良いにしても、名の響きは故国に無いもので違和感を拭えなかった。
しかしそれだけだった。それよりも、この組織の準備の良さに何とも言えない気持ちの悪さを感じてそれ所ではなかった。
あまりに良すぎるタイミング。まるで組織への参加を予め知っていたかのようで。
その後は生活する事に追われ、あまり使われないコードネームは記憶の隅に申し訳程度にあるだけだった。

「そうだったな」
「おいおいしっかりしてくれよ、刹那」

不思議な音だ。故郷にはない響き。
これが自分のものとは思えない。意識していなければまた流してしまいそうだ。
刹那。セツナ。
口の中で転がしてやっぱり拭えない違和感を追い払って、やっと食べ終わった食器を下げる為に立ち上がった。






――――――――――
やはりこの音は自分のものではない。だからといって自らが持つ唯一の名は無くしてしまったけど。

























































「何でナイフ使うようになったんだ?」

単純な疑問だった。
背が小さくて体重も軽い。オマケに近距離戦をこなすとなればリーチも問題となる。
この年でも小柄と称される体躯では、大人にも通用する肉弾戦的スタイルを獲得するまでに多大なる苦労を強いられた筈だ。まして今より幼かった時点においては尚更。
そう、ナイフを使うには不利な面が多すぎる。いくら少年が敏捷性に優れていても体格という生まれ持った要素をカバー仕切るのは難しいのではないだろうか。
まぁ、現在近距離戦で少年の右に出るものはいないので、何とも言えない所ではあるのだが。
ただ身体的ハンデを抱えながらの近距離戦闘より、遠距離からそれらを補った方が余程効率的のように思われるのだ。
危険度はさる事ながら心的負担だって大分違う筈だ。

「殺せるから」
「え?」
「刺せば殺せるだろう」

端的にたった数音呟かれた言葉は、異常としか言えない重みを持って吐き出された。淡々とした響きがよりずしりとした重圧を与える。
少年の年頃から推し量ってこの重みは有り得なかった。
そこでやっと気付いた。またやってしまった、と。
つくづく感じてはいたが、この少年に関してのみ、ある程度信頼を勝ち得ていた己の目測はデタラメになるらしい。距離感が把握できないまま、踏み込みすぎてしまう。
恐らくナイフを持つか銃を持つかの選択など、少年に与えられた事はなかったのだろう。
それすら他人に決定権のある切迫した環境。選択肢はなく、強制力のみがある世界。そんな世界に長く棲んでいたのではないだろうか。

過去の片鱗を捕まえる度、少年の顔から表情が消える。
無表情。無感情。感じる事を辞めてしまう瞬間。
世界の拒絶。
大袈裟に聞こえるかもしれないがそう見えた。
そんな顔をさせたくないのに。それを最も恐れ、過去を妬ましくさえ思っているのに。

「それに…」
「それ、に?」
「………何でもない」

言い淀むなど普段の少年からは考えられない。
これが一因。過去だけがこの少年を動かす。
その事実を前にするたびに言い様のない苛立ちを隠せなくなる。今だって。
後悔したばかりなのに、また。

「言えよ、刹那」

言葉を重ねる自分がいる。
その顔も少年に負けず劣らず無表情であるに違いない。

「何でもない」

それでも頑なに言い渋る少年からは何も聞き出す事が出来なかった。






――――――――――
何度も問い詰めなかったのが、唯一の成長。

























































驚愕は恐怖を連れている。
しかし恐怖を追い払った後には怒りが隠れているものだ。今、俺は抑えられないものを感じている。

少年の戦闘スタイルが危険と隣り合わせである事を理解している。殺傷能力も確実性も高いその戦術の有用性も認めている。
ただ、知っているだけでは駄目だという事が、今更ながらやっと分かった。
少年が怪我をしてから。








「分かってんのか!?死にかけたんだぞ!?」

抑えきれない激流が怒声となって全てを押し流す。既に堤防は決壊し残骸さえ綺麗に飲み込んでいた。
止まらない。止められない。
でも何処かで止める必要もないか、と思っている。
分からず屋に分からせる為には時に激情だって必要だ。言葉にして態度にして。ぶつかる事だって必要なんだ。
そう、自分を何とも思っていない分からず屋にはこのくらいで丁度良い。

「何で避けない!逃げたって良かったんだ!」
「任務にない」
「だからって死んだら元も子もないだろ!」

死んだら。
自分で言っても悪寒が走る。
死ぬ。誰が。目の前の少年が?
冗談じゃない。

怒りは収まらない。殺そうとした奴にも殺されそうになった少年にも。
あの刃がもう少し上だったら。
もう少し左だったら。
今より発見が遅れていたら。
今より血が出ていたら。

そこで突然冷静な思考が降ってきた。あまりに唐突に。あまりにしっくりと。
いくらなんでも、それは。でも否定しきれなくて、既に堤防の無かった口を流れ落ちた。

「死んでも良いと、思ったのか…?」

だから避けなかった。
だから逃げなかった。
口にするとその予測はすぽんと嵌って、嫌になるほど裏付ける事実を突きつけた。
普段の戦い方。投げ遣りにも感じられる言動。それらに片鱗を見付けられる。
まさか本当に。
否定したいのにできない。

否定してくれ。
今まで責めていた少年になす術もなく縋るしかなくなった。

「俺は死なない。神を捨てた俺を拾う訳がない」

その口から出たのは否定だった。
自分の意思が見事に削ぎ落とされた否定。
望んでいたものなのに眼前にナイフを示されたみたいだった。

「苦しんでいたから殺して残してやろうと思っただけだ。深い意味はない」
「……残す?」
「殺した感触を、だ」

体は残らないから。
それだけは覚えておこうと。

慄然とした。
ずっとそうやってきたのか。殺した相手の血を浴びるほどの距離で、感触をその手に残しながら。
怒りは、衝動は、消えた。
残ったのは空しく広がる虚無。






――――――――――
どんな思いで、とは聞かない。それが少年と死者との距離だったから。恋焦がれるほどのパーソナルスペース。
少年が死を望んでいるのかも俺には分からない。でも。
例えどんなに望んでいても俺はお前に生きていて欲しいんだ。刹那。

























































「だったらその力、俺に寄越せ」

触れれば氷に張り付いてしまう冷たさでもって、初めて俺に向けられた音は静かに冷やかに吹き抜けた。
それまでだって流れてくる音に温もりを感じた事などなかったのに、今は持っている温かささえ奪われていく。茶化して流す地点は疾うに過ぎてしまった。その事に後ればせながら気付かされる。
目を背ける事も許されない。今ここで、答えを強要されている。

「乗りたくないのだろう?アンタは今、そう言った」

乗りたくない。その通りだ。そう言った。
誰よりも強い力を欲していた。今だって尚求め続けている。
力が欲しい。この理不尽な世界を変えられる、強大な力が欲しい。
それは俺の中の大部分を占める真実だ。
強く、強く。
何かを得るには、まず強く望まなければならない。そう言ったのは誰だっただろう。
喪った日から常に強く存在した願いに、とうとう見かねて見合う力を与えられた。
予想もしていなかったガンダムマイスターという地位。願っていた願ってもない強大な力。
でも望んだのは。こんな手に余るものではなかったんだ。声なき声が叫ぶ。
大きすぎるんだ。引き金を引けば人ではなくMSを狙い撃てる程。
そう、もう俺一人の手に負える領域は遥かに超越してしまった。指揮官はいるから、責任はいつでも押し付ける事ができる。そうして自分の心を守る事が出来る。
それでも、こんな力を一個人が手にして良いものなのか。罪過はもう、俺一人の命じゃ払いきれない。

「臆病者が。その程度の男が持てる力ではない」

そうだけど。
弾かれたように顔を上げた。取り繕う言葉を探すが、続く言葉など無かった。何を否定するつもりだったのだろう。
その場に磔るように鋭い視線が氷柱となって突き刺さる。酷く冷たい風。軽蔑さえ赤く鋭く氷雪を研ぐ。
その対象は既に、俺ではなくなっていた。目の前の俺を移さず、どこかへ。
ちり、と熱いのか痛いのか判断のつかないものが掠めていった。

「力を欲しているのは俺なのに、」

絞り出される独白。答えさえ拒絶して、既に半身になっていた体が完全に向こうを向いて、遠ざかる。
引き留める言葉なんてない。今においては、確かにその通りだったから。
少年が喉から手が出るほど欲しているもの持っているのに、それを嫌悪している俺が、かけられる言葉なんて無い。






――――――――――
でも、どうにかして、その背を引き留めたかった。

























































側にいたい。触れていたい。ここにいて。触らせたくない。離したくない。ここにいて。ここにいて。
ここにいて。







「何で避けるの」
「避けていない」
「じゃあ何で距離取ろうとしてんの」

つかつかと靴を鳴らす度にざりざりと擦る音が退く。手を伸ばして丁度あと拳一個分。一番長い中指を伸ばしても、もう一歩届かない距離。それは一向に縮まる気配を見せなかった。
物理的に開いた距離に苛立ちが募る。精神的に離れた距離に憎しみ似た感情が蠢く。
押さえつける間もなく黒いものは支配権を乗っ取り、靴の音を掻き消す大きな音を響かせた。
急に詰まった距離に少年の目がこれ以上ない程大きく開かれる。それは傷口から滲む新しい血に似た紅。この蠱惑的なガーネットを間近に見て、魅入られないものがいるなら会ってみたいものだ。魅入られたものから息の根を止めていってやるのに。そんな事を片隅に置きながらうっとりと目を眇める。
いつも反抗を示す少年らしさの残る手首は、驚愕の所為か抵抗らしい抵抗もなく拘束に甘んじた。細い手首は滑らかで柔らかくて、痕を残したくなってきつく握る。赤くなった手首はきっと綺麗だ。赤いブレスレットみたいに。
ぎしりと軋むような感覚が伝わってきて、同時に少年が痛みに一瞬顔を歪めた。

「ねぇ、何で逃げるの」
「逃、げてなんか、」
「嘘。刹那は俺が怖いんでしょ」

ビクリと痙攣する肩は実に正直だ。
そんな反応されたら、苛めたくなる。ペロリと舌なめずり。

「怖く、など」
「本当、意地っ張りで可愛なぁ、刹那は。でも駄目だぞ?」

俺から離れようとするなんて。
押さえつけられて固まっている肩に顎を乗せて、囁く。
びくりと揺れる体が楽しくてわざと耳に息を吹き掛けてから離れた。

「なぁ、刹那。あんまり刺激しないでよ」

理性なんて本能の前では嵐の中の筏みたいなもんなんだよ?






――――――――――
俺はもうずっと前から、お前に狂ってるんだからさ。
あまり可愛い事しないでよ。

























































横たわる黒い髪に指を差し入れる。見た目に反して細い髪が、パサリと枕の上に広がった。その一部が思いがけず頬にかかり、汗で張り付いてギクリとする。眉を顰めて、煩わしいそれを細心の注意を払って祓いのけた。
少年が息を詰める。あまりのタイミングに指先が震える。
起きる気配はなかった。ただ深呼吸が引っ掛かっただけのようだ。手を離してから胸を撫で下ろした。

「こんなになるまで、我慢するなっつーの」

勿論、意図的にトーンを落とした声では、寝苦しそうに汗をかき、呼吸を乱している少年を覚醒に導くまでに至らない。それで良いのだが、どこか物足りなさを感じて今は赤銅色を隠す瞼を指でなぞった。
眠りに入れた事で、えずくのは何とか止められたようだ。胃の中のものがなくなったのも一因だろう。
痛ましい。先ほどの状態を思い起こして溜め息をつく。

「ホント、少しくらい頼ってくれれば良いのに」

辛いなら辛いと言えば良い。本気で隠されたら、残念ながら気付いてやれない事の方が多い。何かしらのサインでも出してくれたなら、何としてでも見つけてやるのに。
そうしたら。助けを求めてくれたなら、ドロドロに甘やかして、もう血みどろで歩く必要なんかないんだよって言ってやるのに。そして、再び歩く事なんか出来ないように、縛り付けて、檻に繋いでおくのに。
世界の為に身を削る必要なんてないんだ。お前を犠牲にして成り立つ平和なんて何の意味も持たないだろう?だってお前が平和じゃない。そんなの、どれだけ白い鳩が報せを連れて来たって無意味だ。
でも。

「お前さんはそんな事望まないんだろうなぁ…」

疲弊した表情を覗き込む。幾分か穏やかになった実年齢より幼い寝顔には、普段見る意志の強さは見えない。
あどけない。その言葉がそのまま当てはまる子どもだったら良かったのに。

「お前さんが望むなら、いつでも連れ出してやるんだよ」

願って求めてすがってくれるなら。誘って拐かして叶えてやるから。






――――――――――
だから、お願い。
俺を連れ出して。




























































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