不安が変わる時
踏み外しちゃった
醒めて視る夢を
ライナス
遺らないから
悪夢でも叶えられる
引力
ハードワークの対価
日常非常日
今日のご飯は

























































































いつか戦争のない世界が来るのだろうか。
小さく呟いた疑問は、俺たちが作るんだ、という意思に力強く拾われた。

「その為にソレスタルビーイングに入ったのではないのか?」
「…そう、だよね」

不思議に対して純粋に疑問を持つ子ども宛ら、少年が見上げてくる。
普段は合わない視線はこんな時だけきちんと絡まって離せない。光が入り込んで赤い眼が鮮やかに揺らめいた。
どこまでも真っ直ぐなその眼。内側が揺らいだ事を見透かされた様な気さえしてくる。

世界は変わる。変えられる。ガンダムにはそれだけの力がある。
それは分かっているつもりだ。それでも不安は尽きなくて。
過去だってガンダムの力を借りて清算した。けれど直ぐさま整理をつけられる程こころは頑丈でも強かでもなくて、未だ否定と肯定の間で揺れている。正しい事が判からなくなる。
こころの揺れは覚悟のブレ。
揺れているこころでは幾ら性能が上がってもカバーしきれない粗さも伴って隙を作る。
超兵といっても所詮は人間の端くれ。脆さを抱えたままでは何れは敗けをみるだろう。そして敗けは死。次はない。
このままでは、と思うと余計にズレが酷くなった。
正しい。何が。思考が。行動が?
そんな時、藁でも何でも流れてくるものなら縋るのではないか。

「アレルヤ。アレルヤが駄目でも俺がいる」




「俺が、ガンダムになる」




きょとんと少年を見ていると、何か間違えたか、と首をかしげていたから慌てて否定した。
それからやっと自然に笑顔を作れるようになった気がして、試しに笑いかけた。






――――――――――
未来は来るかもしれない。
世界は変わるかもしれない。
他の誰が無理でも、彼なら。

























































どこから、なんてわからない。
薬が水に溶けるように。
絵の具が水に広がるように。

いつの間にか、いつの間にか、染まっていたんだ。
そしてもう、分離は不可能。







「ロックオン、構いすぎですよ」
「何の話だ?」
「白々しい」

半分の眼が眦を下げて笑い、一対の赤が心底嫌そうに剣呑に細められた。
主語が無くても通じる話題。それは大抵一人が欠けた状態の時に有効となるものだった。
当事者不在の会議は統治者不在のまま開かれ、はぐらかした表の統治者自身が断罪を受ける。
逃げるのは赦さない。許されない。その段階はとうに過ぎていた。
そんな事、本人も既に分かっている。分かっていて態とはぐらかそうとする行為が断罪を突き付ける側の鼻についた。

クスクスと。
一瞬の沈黙に降りたクスクスと笑う音が場を変えていく。すり替えるように弛廃を広げながら支配する。
空気を勢力下につけている元凶は目の前の男がつけた奇妙な仮面だった。
笑顔であるのに底冷えするものを内包していて、それを押さえつけようとしている所為で酷く無機質。
ものの見事に感情だけが相殺されている。そのせいで人を相手にしている気がせず、変な悪寒が走った。

「はいはい、こーさん。しかしティエリアまで珍しいな。この手の話は無視すると思ってたんだけど?」
「下手な事をされて不確定要素が増えるのは本意ではありませんから」
「はは、らしいな。だがこれは俺たちの問題だ。手出ししないでもらおうか」
「そうはいきませんよ」

笑顔を抑えた青年は灰色の眼を薄く顰めて応じた。ヒクリと目許が震える。

「影響が出てるのは貴方も気付いているんでしょ?今は彼にとって大事な時期なんです」
「だからだろ?」

仮面の下の感情がごろりと動いた気配がしたのに、気配以外は遺骸すら出てくる事は無かった。
沈黙の内に殺される。始末されている。
代わりに口先だけの狂気が凶器として会議に介在する。

「アイツは頼れる相手を探してる。だから、」
「だからっ!頼る事と依存は違う!」

言葉と動作で否定する。そうでもしなければ呑まれてしまいそうだ。
後ろに控える赤い眼は動かなかったが、動かない事で肯定の意を見せた。援護を受けて言葉が重なる。

「貴方の行動は彼をダメにする!一人で立てなくなっ て  …」

はた、と、気付いた仮説。
もしかして、もしかしなくて、も。
そんな。

「ま、さか、それがあなたの…?」

沈黙は肯定。それは先ほど赤い眼をした青年がしてみせたばかりだ。
みるみる内に仮面は壊れ下から新たな仮面が現れる。
それも、笑顔。どうしようもなく止められなかった、口の裂けた笑み。









「幸せな事だろう?」





世界で唯一頼られるのは。
だからそうなるように。






――――――――――
呼ぶ声が響く。
漢字にすればたった2文字。音にしても1つ増えて3音。
だけど年月と伴にとてつもなく連なった長く重い鎖。
どこにも行けないように、帰ってくるように、離れないように。
繋ぐ。繋ぐ。

























































優しい母が手招いている。
逞しい父が笑っている。
可愛い妹が呼んでいる。

幸せで綺麗で理想の家族。幻でも良いからと願った家族の姿。
それなのに遠ざかっていく。追いかけようにも今の俺には実体がなかったがそれでも手を伸ばした。


凄惨な破壊の跡に。





「……っ!」

唐突に体が現実感を取り戻し荒く空気の通る音が遠くに聞こえた。暗く無機質な板が天井だと、荒い空気の流れが自分の息だと理解するまでに少しの時間を要して、大きく息を吐き起き上がる。
そこはいつの間にか見慣れた談話室のソファーだった。無意識の溜め息が零れ落ちる。呼吸はなんとか戻ったがまだ動悸が収まらなかった。

でも、と先ほどの映像を思い出す。
今日のは良いものを見た。思い出以外で家族の鮮明な笑顔を見たのは久しぶりで、自然と頬が緩んだ。
その時静かに出入口が開き、少年が扉同様音もなく無重力を滑ってきた。一瞬眼があったのに一言もなく一瞥しかくれずに通り過ぎていく。らしいと言えばらしい行動に苦笑を禁じ得ない。

「水、飲みに来たのか?」

問うてみれぱやはり声はなく、動作を中断させる事もなく頷くだけで応えてきた。
本当に彼らしい。堪えられず小さく吹き出すと訝しげに眉を潜めた赤とぶつかった。

「機嫌が良いな」
「そう見えるか?」

野生の勘か。首肯だけで理由は告げられなかったが、的確に心情を読む少年の顔を、ついでだ、と差し出されたコップを受けとりながら見上げた。見上げた赤は光が入らなかった所為で今度は臙脂に陰り奥まで見えない。何だか惜しいなと思う。

「夢見が良かったんだ。次のミッション、俺頑張っちゃおっかな」
「そうか」

傾城の美貌を持つ青年なら冷静に釘を刺すだろうし、黒髪を垂らした青年であれば微笑を交えた激励をするだろう場面。
少年からも何かしらのアクションがほしい所ではあったが、簡単に流されてしまいそれは叶わない。だが今はそれさえ気にならない程の寛容さが宿っている。
家族の笑顔をもう一度反芻してそれを己のものとした。






――――――――――
「しっかしいつまでやりゃあ良いのかね」
「終わるまでだろう。終わらせてみせる。俺が」
「頼りにしてるぜ?」

























































「眠れないのか」

今の今まで寝ていると思っていた少年から、静寂を破る音が飛び出した事で不覚ながらもビクリと体が震えた。
触れていなくて良かった。触れようか触れまいかで振れていて、降る衝動に負けそうな所だった。
不意討ちは反則だ、と理不尽に少年を責めそうになったが大人げなさすぎるので取り止め。取り繕ってみても恥の上塗りなので、ワンテンポ遅れたけれど正直に認める苦笑をして見せた。

「あぁ。刹那は寝てたんじゃねぇの?」
「音がしたから」
「済まん。俺が起こしたんだな」

小さく顔をシーツに擦り付ける仕草の否定。最小限の動きと少しの安堵に笑みを浮かべて、起きてくれたのなら好都合と、狡い大人は尋ねる事をしなければこれ以上会話のない少年に問いかける事にする。

「明日の潜入任務、大丈夫か?」
「大丈夫も何も任務は遂行するまでだ」
「でも何が起こるかわからないだろ」
「対処する方法は心得ている」
「確かにお前さんが強いのは知ってるけどね。何かあったらすぐ連絡入れろよ?」
「作戦行動にない」
「それでも、だ」

強く強く念を押す。こう言っても少年は連絡してこないだろう。逸脱行動は多いが、何よりも達成したい目標に繋がる任務を大切に思っている。それがこの少年の強さ。そんなのよく知っている。知ってはいるが、それでもこれだけは頷いて欲しかったのだ。気休めでも出任せでも、この際何でも構わない。頷いてくれるだけで良い。
知ってか知らずか少年は観念したように分かったと小さく首肯した。先ほどとは比べ物にならない安堵が溢れだし、自然と笑顔になる。ただの口約束だ。すぐ破られる。だが頷いてくれた事を喜ぶ自分が止められなかった。
そんな俺の様子を静かに見ていた少年がポツリと言葉を落とし、それが不思議な程しっくりと波紋を広げていくのを見た。

「怖いのか」

そんな感情には思い当たっておらず単純に驚いた。
怖い。何故。

「なにが、」
「こっちに来い」
「え、何で、」
「何度も言わせるな」

訳が分からなかったが取りあえず自分に宛がわれた場所から這い出し、指示通り隣のベッドの布団を被る。すると何を思ったか少年に頭を抱き締められた。
硬直。緊張。驚愕。混乱。
嘗てない恐慌状態が訪れた。

「せっ、刹那!?」
「俺はまだガンダムではないからこの体を守ってやる事は出来ない」





「だが眠りくらい、守ってやる」





腕に力が篭り息苦しかったがそんな事どうでも良かった。

ああ、ああ。
この少年には勝てない。






――――――――――
「おやすみ」

























































記憶に残る事。それはさして重要性を持たない。
個人の記録は半世紀も保存されれば良い方で、後に必要なのはほんの一握りの偉業をなした偶像だけだ。
それより優先させるべきなのは組織の記録。ソレスタルビーイングの軌跡。








「だからお前にはガンダムマイスターの適性がないと言ったんだ」

目の前でその美貌を歪ませた青年が怒気を孕ませて唸る。特に何もしていないので彼に捕まる理由はない筈だった。
今回の介入行動で大分愛機を傷つけてしまったので、早く整備に行きたいというのについてない。

「わかっているのか」
「咎められる理由がわからない」

正直に言うと青年は露骨に不愉快だという表情をして、怒鳴り声を上げそうになるのを押し殺したような、奇妙に均した声で応じた。

「お前に自己保存意識はないのかと訊いている」
「俺は生きている。それが答えだ」
「生きているから良いというものではない。そんな事を続けている様なら近い内に計画に支障が出る」

そういうものだろうか。しかしこれが俺の戦闘パターンであり、だからこその前線起用だろう。
前線で自己の生命を優先できる程の時間的、空間的余裕はない。
余裕を作るとなると戦闘パターンを変える事が必須事項となる訳だが、現時点からの変更は多大な時間と共に大きな代償を払う事になりかねない。
変化には常に途中経過というものが存在する。それは慣れたパターンを崩し新しいスタイルを確立する為の時期であり必要不可欠なものだ。
削る事の出来ないその期間は非常に中途半端で、反射で出来ていた攻撃行動を頭で考えながらしなくてはならない問題点が大きなリスクと共にやってくる。
そうなれば命取りとなる刹那の逡巡を生み出すのは必至。常に危険と隣り合わせている現状は、変化を許容してくれるものではなく適切とは言えない。
大丈夫だ。計画に支障を来す事はない。忘れたのか。

「組織の存続さえ可能ならば駒の代えはいくらでも利く」

いつもあんたが言っている事だ。駄目であれば替えれば良い。人など一瞬しか存在出来ない取るに足らないものなのだから。
言った事は間違っていなかった筈だ。だが青年の切り揃えられた髪はふわふわと舞い上がり、先ほどとは比べ物にならない剥き出しの感情が当てられる。
怒り。それも雑じり気のない怒気。

「だからっ、お前には相応しくないと言っているんだ!」

何か言うより呆気にとられる方にかまけていた所為で扉に遮られる前に声を上げる事は叶わなかった。







「だって、そうだろう」

例えエクシアが墜ちても、俺が帰れなくなっても、太陽炉やソレスタルビーイングがあれば何度でも蘇る。理念は死なない。
引き継がれる技術と継いでくれる者達がいれば永遠だって可能だ。
流石に計画は変更しなくてはならないだろうが、終わりではない。戦争根絶は、誰かが変わりに果たしてくれれば良い。そうじゃないのか。
そうやって200年受け継がれてきたのだろう?






――――――――――
確かに戦争のない世界をこの眼で見られないのは少し、残念、だけど。

























































赤茶けた砂の上を走る。
持った凶器がガチャガチャ鳴って息が切れた。
所々に突き出している瓦礫が足を払おうとするのに耐えながら目標までの距離を測る。あと7、8メートル。射程距離圏内。
隠れられそうな場所は沢山ある。狙えて、見つからない場所。その一つに転がりこんだ。
滑らかな動作で少しだけ減った弾を確認し、そんなに減ってもいなかった弾奏を新しいものに変える。弾は多い方が良い。
時間は一分一秒でも惜しい。弾を籠め直す間に命がなくなるから。
何も考えていない内に装填は終わる。ああ、弾の装填は見ていなくてはならないのに。暴発なんかしないように見ていなければならないのに。
呼吸を整える。その時初めて呼吸も鼓動も早くなっている事に気付いた。でも抑えられる。大丈夫だ。抑えられる。抑えられる。

すう、と。
音の聞こえない世界に降りる。意識が遠くまで飛んだ。


行く。


瞬間、物陰から飛び出して狙いをつけ、引き金に力を入れた。
だが、撃てなかった。
驚愕。
それしかなかった。
なんで。
なんであれがここに。





「デュナメス…」





見覚えのある緑の機体。
大きな銃を持つ痩躯。
紛れもなくガンダム。

そんな、何故ここに。
だってここは。
見る間に持ち上がっていく銃は大きな穴を此方に向けて止まった。



ああ、でも。
やっと来てくれたんだ。










俺の、死神。










「……せ……、せつ、な…!」

ビクリと震えた。その反動で目が開く。
目が開くという事は。

「俺は…」
「魘されてた。大丈夫か?」
「ああ…」

夢。
赤い砂も、廃墟も、手にした凶器も。
あの、ガンダムも。



見上げた顔が詰めていた息を吐くように笑うのを見て、ふと疑問に思う。
俺の寝ている環境でこの男が目の前にいるのは可笑しい。いる筈がない。
よく見れば見知った部屋でもない。頭が冴えていくのと反比例して痛みが来る。頭が痛い。

「ここは?」
「医務室。モレノは定時連絡と外回り」

助かったのか。いや、助けられたのか。
朧気に思い出した戦場に赤い砂はなく生身ですらなかった。
黒いフラッグ。
しつこく追ってくるいつもの機体に当てられ、強い衝撃を受けた。そこから記憶がない。

「痛みは?記憶がないー、とか」
「ずきずきする」
「痛いだけならとりあえず大丈夫か」

少し歪んだ笑顔の次いでに撫でる為に伸びてくる手を避ける。
触るな。
暗に伝えるように見ると更に苦く笑って。
それでもいつものようにその手を引く事はしなかった。
異様に冷たい手。素手のまま湿り気を帯びて頬に触れる。
手袋はどうしたのかとまた無言で問えば、ただ眉尻を下げて微笑んだ。

「良かった」

何が、とは聞かなかった。説明されて理解できる程、彼の内面は単純ではないようだった。
珍しく不安定な男に自分も珍しく気が向いて好きにさせてやろうと。
ゆっくり瞼を閉じた。






――――――――――
瞼の裏に映るのは美しい燐光を放つ緑色の機体。
愛しい、と、そう思って。
手を伸ばしたかった。

























































引かれる 引かれる
寄っては行く彗星の様に
付かず離れぬ月の様に







「せーつな、何見てんの」
「…何も」

唐突に機嫌の良さそうな溌剌とした顔が目の前に現れてたじろいだ。反応がワンテンポ遅れて裏を取る。
動揺に揺れたままでも、本心を押し隠したまま割と当たり障りのない返答を出来た自身に賞賛を贈りたい。拍手。

「あれ?視線感じたような気がしたんですけど?」
「俺の前を歩いているのだから当たり前だろう」

からかいの色を帯びた台詞にカチンときて、反論に意地が入り込んだ。
その割には理路整然と整理された正論でやり返せた。今日は随分と冴えている。拍手。

動じてなんかやらない。
付入る隙なんかやらない。
こちらから折れてなんてやらない。
やるものか。

コイツを付け上がらせて優位に立たせるなんて。自身で自身の不利を招くなんて。
その日と言わず次の日の気分まで超低空飛行だ。ああ癪だ。
鎌をかけるくらいならそっちから言ってみろ。

「そんなんじゃなくてあっつ〜いヤツだよ」
「気の所為だな」

一刀両断。それでも何かしら発しようとしている青年の横を通りすぎ格納庫へと床を蹴った。無性に無償で多くを与えてくれる愛機に会いたかった。






――――――――――
「どっちが先に折れると思う?」
『知らねぇよ。ンな事で俺に話しかけんな』
「二人ともどうせ離れられないくせにね」
『お前、返事聞かねーなら話しかけんな』

























































あちこちで戦争の火種を潰して歩いても、いろいろな形で小火騒ぎは起こる。
消火活動が追いつかないってのに小火まで手段にしてくるから呆れて笑うしかない。
小賢しい。これこそ人の性というか。本当に人ってのは罪深い。
なんて、先陣きって武力行使する俺たちに言われてたら世話ないが。でもだから俺たちみたいなのが出てくるんだろ。

手持ちぶさたな手にリモコンを持たせてつけたテレビは世界の現状を流し続けている。特番の様だが、俺たちが活動する度に特番を組んでいたら、特番が普通の番組に取って変わる日もそう遠くないだろう。とりとめのない思考でテレビを眺める。
変わらない日常。変わらない世界。こんなに頑張ってるのに変化は鈍足だ。こんな仕事熱心な会社員なんて今時いないぞ。本当に社会は不公平だ。どこも諦めて仲良くなれば良いのに、とまで考えて、各国には矜持という無駄で邪魔で救いようのないものがあるから不可能か、と思い直す。面倒な事だ。
終わらない激戦。続く怨嗟の嵐。こんな事を人は人になった時から続けている。

世界はそんなでも今日は休戦。
何せ今日はオフなんだから。数少ない、色んなものから離れられるオフなんだから。仕事熱心な会社員にだって休息は必要なんだ。
戦争、紛争、内乱、冷戦。日々闘争ばかりを流し続けるテレビを消して音を追い出した。

「刹那ぁ」
「なんだ」

丁度出来上がった湯気の上がるカップと返事が一緒に帰ってくる。ローテーブルにカップを2つ置いて斜め向かいに一人腰を下ろす。
その仕草とか動作とか視線とか、彼、とか。
うん、なんていうか。





それさえあればいいかな、なんて。





「刹那」

淹れてくれたコーヒーを一口飲んで呼び掛ける。返事はないが絡む視線に満足。
弛む顔はそのままに、またコーヒーに口をつけると、一つ溜め息を吐いたあと倣うようにカップで半分顔を隠した。






――――――――――
また、頑張ろう。

























































「よぉ刹那。遊びに来てやったぜ」
「頼んでない」

即座に扉を閉めた。
しかしガン、と音がした入り口は閉ざす筈だった扉を途中で止めてしまった。見れば足が挟まっている。
痛そうな音。扉は大丈夫だろうか。

「そんなつれない事言うなって」
「お昼、まだでしょう?ちょっと台所使わせて貰いたいんだ」

茶色い髪の青年で見えなかったが、後ろに俺と同じ黒髪で顔を半分隠した青年がいた様で、ガサ、と買い物袋を持ち上げて見せてきた。準備の良い事にマイバック。さすが。
それにしても。
世界の敵の先鋒、マイスターの御出座しか。しかも、二人揃っている。この分だと重力嫌いの紫暗の髪の青年も引きずられて来ていそうだ。随分と豪華な。
まぁ、口煩い青年以外を断る理由はない。食事を作ってくれるなら手間も省ける。
打算をしてから少しだけ体をずらして道を作る。

「アレルヤとティエリアなら良い」
「え、俺は!?」
「では失礼する」
「お邪魔します」
「ああ、何もないがな」
「ねぇ、俺は!?」

あんたは煩いから嫌だ。






黒髪の青年が作ったのはパスタだった。ご飯類があるとは考えていなかったらしく食材を買っていけば出来るものをとの選択だった。賢明な判断だ。
それでも調味料類がない事までは予想出来なかった様で途中で買いに走っていたが。
持ち込む奴がいたから調味料は順調に増えていたのだが、丁度切らしていたのだ。しかも塩と胡椒、両方とも。
黒髪の青年がクレイジーソルトはあるのに、と微妙な顔をしてぼやいていた。自分では料理なんかしないから、それもいま初めて知ったのだが。

「流石に塩もないとは思ってなかったよ」
「必要ないかと思っていた」
「そして何で俺が買いに行ったかわかんねーんだけど」
「でも外食とかばっかりだと栄養が偏るよ」
「君は体調管理がなっていない。これもマイスターの仕事の一つだと思え」
「それいつも俺が言ってるよな」
「善処する」
「なぁ何でアレルヤとティエリアにはそんな素直なの!?差別はいけないんだぞ!こら、食べ始めるな!ねぇ、お願いだから無視しないで!」






――――――――――
これが日常だったら良かったのに。
でも本当にそうだったらこの顔触れはあり得なかっただろう。それは勿体無いな。

























































「お邪魔してます」
「………………どうぞ」

非常に非常識で異常な状況なのだが呆気に取られ反応するタイミングを逃した上、相手がニコニコ笑ってるものだから詰問の権利も雰囲気へと委譲してしまう。でも他に言い方があっただろう。どうぞって何だどうぞって。
青年はそんな俺をさて置いて、椅子に腰掛けたままテーブルに置いてあったカップを持ち上げて見せた。部屋に充満している芳香の原因はアレかと納得する。

「何飲む?」
「じゃあコーヒーを」

尋ねられて青年が飲んでいるだろう飲み物を指定する。わかったちょっと待ってて、と青年が立ち上がるのを視線だけで見送る。
いや、何で平然と返事なんかしたんだ。客に飲み物を出させるのは失礼だとか以前マイスターを束ねる苦労性のリーダーが言っていた気がする。いやいや、それより先に茶菓子か。しかし、そもそもここにコーヒーを常備した覚えがない。えぇと、ここは俺の潜伏場所だ?








「で、どうやってここに入ったんだ?」
「ロックオンが刹那の処に行くなら、って鍵を貸してくれたんだよ」
「………」

余計な事を。というより何故アイツが俺の部屋の鍵を持っているのか。プライバシーの侵害も良い所だ。今、訴えたら絶対に勝てる。
結局、青年がコーヒーを温め直して戻るまで質問も何もお預けを食らい今に至る。持つのも躊躇われる程の熱いカップに口をつけて、やっと平時の冷静さを取り戻せた。ただ未だ舌に残るヒリヒリとした痛みを代償としたが。

「それより刹那は食べれないものある?」
「は?」

これはまた唐突だった。すぐに返せないでいると質問内容を理解できなかったと思われたのか、もう一度例を加えた問いが繰り返される。

「だから食べれないもの。ピーマンが嫌いとか卵が食べれないとか」
「ない」
「ないの?」
「腐敗したものと毒物以外なら食べられる」

一瞬きょとんとした表情で見るから何か変な事を言ったのかと思った。
そういう事じゃないんだけどまぁ良いや、と少し困った様に軽く笑って。

「じゃあ今から作るからコーヒー飲んで待ってて」

と、持参してきたのかエプロンをして台所へと消えた。






――――――――――
その日の昼食は日本食を意識したのか山菜うどん。
この家に材料なんかなかったと思うがどうなのだろう。もう何があっても驚かない自信がある。




























































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